約 933,117 件
https://w.atwiki.jp/deruze/pages/45.html
ジム・チャップマン 出典:『バイオハザードアウトブレイク』 年齢/性別:24歳/男性 外見:黒人男性。地下鉄職員の制服、帽子を身につけている。髪は短く刈り上げているが帽子に隠れている。 環境:ラクーン・シティで地下鉄職員として働いていたが、生物災害に巻き込まれている。 性格:気さくで陽気だが、臆病さや度量の狭さを見せることも。悪気はないのについ一言多く、よく周囲の顰蹙を買う。 能力:死んだふり:死んだふりをしている間は敵に気づかれなくなる。少なくともバイオハザードに登場するクリーチャーには有効。 死んだふりをしている間はウィルスの進行が加速してしまう。 アイテムサーチ:初めて来た場所でもアイテムがどこにあるかわかる。アイテムの種類は識別できない。 コイントス:コイントスをする。「表」が出るとクリティカル率が15%ずつ上がり、最大4回まで有効。 パズルが得意。 口調:一人称「オレ/オレ様」 二人称「アンタ」 誰に対しても親しげに話す。 交友:バイオハザードアウトブレイクのメインキャラクター全員と面識があります。 マークとは仲がよく、ヨーコに気がある様子(ヨーコには快く思われていなかった)アリッサを恐れているらしく非協力的。 備考:アウトブレイクFILE1「決意」のペアED後から参加。デイライトは接種していません。
https://w.atwiki.jp/deruze/pages/337.html
S&Wシグマ@現実 90年代に有名な銃器メーカーであるS&W社が経営再建の為に開発したプラスチック製自動拳銃。 実用性は高く、公的機関向けに開発されたのだが、グロック17と内部構造が似ているという点でグロック社に起訴され、多額の賠償金を支払う羽目になったという不幸な拳銃。現在は生産も停止されている。 使用弾薬は9mmパラペラム弾(ハンドガンの弾)。装弾数は15発。
https://w.atwiki.jp/deruze/pages/490.html
YOU'RE GONNA BE FINE 夢と現の、曖昧な境目。 不安も、苦痛も、安らかな浮遊感の中へと溶けて薄まる微睡みの世界。 今、彼が体感している感覚は、その心地良さに近しいものだった。 月明かりも街灯も無く、ただ暗闇に覆われているはずの街は、幻想的な光で彩られている。 小さな、優しい光。 街の中を緩やかに漂う、無数の発光体。 エンジェルやフェアリーの姿を連想させるその光は、時には地面から。時には何もない中空から。 何処からともなく現れて、何処へともなく消えていく。 まるでファンタジー映画の世界にでも迷い込んでしまったかのような風景だ。 警察署で意識を取り戻した時から見えていたそれは、今では一層美しさを増していて。 眺めているだけでも安らぎに包まれる様で。 すぐ側を舞う光の一つに、吸い寄せられるように彼は手を翳していた。 軌道を遮るように広げられた掌。軌跡のままに中空を泳ぐ光は、掌に重なるも――――触れる事無く、すり抜けていく。 彼の虚ろな瞳は、そのままただ何となしに光を追った。 光は気紛れに宙を舞いながら、遠ざかる。 やがては闇と同化するかの様に、その輪郭を朧気なものとし、消えていく。 その光と入れ替わる様に、彼の瞳が捉えたものがあった。 光の消えた先。交差する通りの反対側に、一つの人影が見える。 男、だろう。何やら黒い布を纏っている。 こちらには気付かずに通りの奥へと向かっていくが――――あれは、『仲間』だろうか。 幻想的で、安らぎに満ちた世界を共に生き、やがては大いなる存在の元で一つとなる『仲間』なのだろうか。 それとも、まだ『こちら側』には来ていない者か。そちらの可能性も、充分に有り得る。 もしもそうだとしたら――――。 彼は恍惚の笑みを浮かべ、男の後を追うように足を踏み出した。 もしもそうだとしたら、導いてやらねばならない。 あらゆる苦しみの無くなる、安らぎに満ち溢れたこの美しい楽園への道へと導いてやるのだ。 仲間を増やす事。 それが、彼や『仲間達』が遥か彼方、この街ともまた異なる世界に住まう大いなる存在から与えられた使命なのだから。 男は暗闇にそびえ立つ建物の前で足を止めた。 建物の門を奇妙そうに見上げる男の横顔が、彼の眼に映る。 何処か、覚えのある顔だった。彼はあの男を良く知っている。そんな気がした。 だが、男が誰なのか。それを思い出そうとするよりも早く、彼は右手のハンドガンの銃口を向けていた。 男が誰であれ、思い出す必要は無かった。男は『仲間』ではない。それだけが分かれば、用は足りる。 『仲間』ではないなら、こうして『仲間』に引き入れる。それだけの事だ。 ハンドガンの照準が、男の身体に合わさった。 もうすぐあの男は、この素晴らしい世界を共に分かち合う『仲間』の一人となれる。 引き金に乗せた人差し指に、ゆっくりと力が込められていき――――。 「……………………ンァ?」 ふと、一つの抵抗を覚えた。 何かが気になる。何かが躊躇われる。 目の前に掲げたハンドガン。 何かしらの抵抗を、それに覚えた。 このハンドガンは本当にこう使うべきなのかと。 自分の使命は本当にこうする事なのかと。 何かが訴えかけている。 こう使う、とは。 使命、とは。 自分は今、何故あの男を狙っている。 あの男を撃つ事は、本当に自分のやる事なのか。 違う、気がしていた。 ゆっくりと、男から銃口を外し、彼は戸惑いの眼差しで手の中のハンドガンを見つめ直した。 そのハンドガンは――――ベレッタM92F。 ありふれてはいるが、彼の誇りとも言える拳銃。 彼と共に幾多の使命をこなしてきた拳銃だ。 誇り。 使命。 それは、何の。 それは『仲間』を増やす事だったか――――いや、違う。 ベレッタM92F。 そう。それは殺戮を行う為のものではない。 それは、人々を助けるもの。彼の手の中で、幾度となく人々を守ってきた彼愛用の拳銃なのだ。 己の誇り――――警官としての、誇り。 己の使命――――人々を守る、使命。 そうだ。 自分は――――――――――――――――。 「…………はっ」 大きく息を吸い込み、マービン・ブラナーは夢見心地の世界から抜け出した。 やや朦朧としている意識。今の感覚は一体何だ。夢、だったのだろうか。 状況が掴めない。自身が今、何処に立っているかも分からず、マービンは首を巡らせる。 後ろを見れば、赤い湖が視界いっぱいに広がっていた。そこは、橋のすぐ側の十字路だった。 ――――そうだ。 自分は、署に向かう為に通りを引き返し、橋を渡ろうとして――――そこで精神に変調をきたしたのだ。 原因は、恐らくこの湖。 どうしてか今の自分は、この赤い湖に惹きつけられている。 橋を渡る途中で、ふと見下ろしたこの湖に見入ってしまい、そして、安寧に包まれたのだ。 今こうしている間でも、気を抜けばまた惹きつけられ、惹きこまれてしまいそうになる。 それも、先程シムラとこの橋を通り抜けた時よりも強く、だ。 まるで母親の様な。ここが己の帰るべき場所であるかの様な。 そんな絶対的な安堵感が、この湖からは感じられていた。 「くそ……っ!」 意識を強く保て。自らに言い聞かせながら、マービンは湖から目を切った。 ある一つの恐怖と予感が、彼を襲っていた。 この症状はもしや進行するのではないか――――絶望へと繋がる、そんな予感が。 無意識に腹部の傷口に視線が落ちる。いや、傷口があった箇所というべきか。 既に完治している傷口。化物の証とも言える身体。 先の警察署では、ゾンビと変わり果ててしまった者達が、リッカーと名付けた異形への変貌を見せつけた。 それと同じように、この身体もいずれ更なる変化を迎えてしまう可能性はあるのではないだろうか。 それが身体だけの事ならば良い。だが、あの惹きつけられる感覚。 確かに今は自我を保てているが、再びあちら側に強く惹きつけられる時が来たら、今度はどうなる。 その時に生存者達の側に自分が居たとしたら、どうなってしまう。 他の人間を巻き込みたくはないが――――抗い切れるものなのだろうか。 こんな有様で、生存者達を救う事が本当に可能なのだろうか。 可能だと、そう信じたいところだが、あの感覚を体験してしまった今ではそれは断言出来るものではない。 『それを選ぶとなると俺達は化け物として疎外され、忌み嫌われて一生、いや永遠に苦しみ続ける事になる。 それより、化け物としての本能に従って仲間を増やし、俺達の楽園を作る方が楽だとは思わんか』 不意にシムラの声が浮かんだ。 彼と別れてから、そう時間は経っていないはずだ。なのに、早くも彼の言った通りに自分は苦しさを覚えている。 シムラは正しかったのだろうか。 彼が言うように化け物としての本能に従い、この湖に惹きつけられるままに行動する。 確かにそうすれば楽にはなれるのだろうが、それが正しいのだろうか。 ――――違う、とマービンは頭の中で再びシムラを否定する。 今の自分が人間ではない。それはどうする事も出来ない事実だ。 それでも。自分が人間ではなく、化け物の一匹にすぎないのだとしても。 それでも、警官ではありたい。シムラに銃を向けたのは、己が警官である為なのだ。 人々を守る使命は忘れてしまいたくはない。例え肉体がどうなろうとも、警官としての誇りだけは失いたくはない。 その誇りを否定する事など、何者にも出来るはずがない。 自分は、間違っていない。そう信じたい。だが、しかし――――。 (抗えなければ、意味は無いんじゃないか……?) 行き着いた先は、苦悩が始まった場所。 答えなどあるはずもない思考。 あてどない迷宮にマービンが陥ろうとしていた、そんな時――――彼の耳に、ギィと鉄の甲高く軋む音が届いた。 「あれは……!?」 聞き慣れた、格子状の鉄門が開かれる音だった。 夢の中での記憶を思い返すように。或いはデジャヴを感じるような感覚で。マービンは『惹きつけられていた際』の記憶を思い出す。 音の方向――――彼の目的地でもあるラクーン警察署へと目を向ければ、門の前に一人の男の姿を捉えた。 見覚えのある姿だ。若干遠目な上、黒い何かを羽織っている為にはっきりとはしないが、それが誰なのかは容貌や仕草から直感的に分かる。 惹きつけられていた時の自分が銃口を突きつけていた男の事を、マービンは今思い出した。 「ケン、ド……?」 ロバート・ケンド。 ラクーン警察署の目と鼻の先に店を構える、ケンド銃砲店の主人。 口は悪いが気の良い男で義理堅く、署員の中にも彼に世話になっている者は多数いた。 ゾンビ事件の発生でラクーンシティがパニックに陥った際、市民の救助活動に尽力してくれた一人でもある。 最後に会ったのは――――ケビンが署に新聞記者やら鉄道職員やらを避難させてくる前だったか。それ以降は連絡も取れなくなってしまった。 安否を気遣ってはいたのだが、まさかこの奇妙な街で再会を果たそうとは。 「ケン…………」 開かれた正門から署の敷地内へと姿を消したケンドに呼びかけようとして、マービンは声を飲み込んだ。 迷いがあった。このまま普通の人間達と合流してもいいものかと。 だが、数秒の逡巡の後、意を決してマービンは駆け出した。 この症状が進行するにしても、今ならまだ抗う事が出来る。 ならば今のうちに出来る限りの事をしたい。例えば自分のような化け物の存在を伝えるだけでも、彼らの生存確率は上がるはずだ。 それに、一般市民とは言えケンドならば信頼出来る。 信頼出来て、協力してくれる者と一緒にいられれば。 生存者を守る、その人間らしい思考を常に保っていられれば。 或いはこの症状の進行も抑えられるかもしれない。そんな、捨て切れない望みに縋って。 マービンが正門に辿り着いた時、辺りにケンドの姿は見当たらない。 開きっぱなしの玄関扉から中の様子を窺うが、そこにも人影は無い。 既に署の奥へと移動してしまったようだ。だが、何処へ。 東と西。左右の扉に目を向ける。先程は閉じられていたはずの西側オフィスへの扉が開いていた。 「こっちか……?」 署の西側でケンドが目的とする部屋。心当たりがあるとすれば、S.T.A.R.S.のオフィスくらいか。 ケンドはS.T.A.R.S.の連中とは懇意にしていた。特にバリーとは妙にウマが合っていたように思える。 ケンドが自ら装備品の搬送を取り行う事も珍しくなく、S.T.A.R.S.オフィスには頻繁に立ち入っていた。 今のこの状況ならば、ケンドが武器を求めてS.T.A.R.S.オフィスに向かう可能性は、限りなく高い。 ミカエル・フェスティバル、兼、新人警察官歓迎会。 企画倒れで終わってしまったパーティ会場内での一応の確認を済ませ、マービンはオフィスを抜ける。 続く倉庫、階段下にもケンドはいない。あるのは腐った市民や同僚達の成れの果てだけだ。 それらを尻目に階段を上がる。二階も前と変わらず、特に異常は見られない。 そして――――S.T.A.R.S.オフィス前。 薄汚れたプレートに表記されたS.T.A.R.S.の文字が、弱々しく明滅する照明の光で照らし出されていた。 ケンドが来るとすればここのはず。その予想が的中したのかどうか。中からは、確かな気配が感じられていた。 「……ケンドか?」 赤錆だらけの扉に向かい、マービンは躊躇いがちに呼び掛ける。 中に居るのがケンドなのか、別の人間なのか、それともゾンビ達が入り込んでいるのか。 可能性は様々だが、とは言え、確かめない訳にはいかない。 マービンの声に、中の気配は動きを止めた。 しばし待つがそれ以上の反応はない。これで最悪でもゾンビのセンは消えたが――――。 「いるなら返事をしてくれ。俺だ。マービンだ」 「……マービン。お前さんか」 扉越しに聞こえてきたのは、抑揚の無い冷たい声。しかし、確かにケンドのものだった。 中にいる者はケンド。それが分かり、無意識にマービンは緊張を緩めていた。 「無事で何よりだ、ケンド。すぐにでも再会を祝いたいところだが……俺の方に厄介事が起きていてな」 「厄介事? ロメロやらキングやらのペーパーバックの世界に入り込んじまうよりも厄介な事なんてあるのか?」 「……さあな。どっちが厄介かなんて俺には分からん。とにかく、落ち着いて俺の話を聞いてくれ。 今からドアを開けるが、絶対に、撃つんじゃあないぞ」 「…………」 腰のホルスターに銃を収め、マービンはゆっくりと扉を引いた。 そこに生じる違和感。室内には明かりが点いておらず、暗闇に包まれていた。 この身体になってからは多少の暗闇には悩まされる事は無いが、疑問は浮かぶ。 「おい……どうして電気を点けないんだ?」 奇妙に思いながらも、マービンは両腕を上げてオフィス内に足を踏み入れる。 瞬間、視界の端で影が動いた。 左――――顔を向け、バリーのデスク前にいるケンドの姿を捉えると同時に、マービンは三連続の破裂音を聞いた。 「…………え?」 それが3点バーストの銃声だと分かったのは、目の前のケンドの構えと、彼が両手で握るサムライ・エッジを認識した時だ。 遅れてやってきた、身体を駆け抜ける三つの激痛。胸から吹き出す血液が、以前の負傷で既に血に染まっていた彼の制服を、更に赤く染め上げていく。 口からは呻き声と共に血を吐き出して、マービンは胸を押さえながら床に片膝をついた。 「何か妙だと思ったぜ。死に損なっちまったのか?」 何を言っている――――困惑の思いでケンドを見上げ、そして漸く気が付いた。 黒い何かを纏う彼の顔が、人間のように見えている事の不自然さに。 「S.T.A.R.S.の連中がやんちゃ坊主なら、お前さんは落ちこぼれってとこか」 先程遭遇したアジア系の軍人と子供の二人は、人間であるが故に化け物に見えたはずだ。しかし今のケンドにはそれがない。 つまりは――――彼もまた、既に化け物の一匹と成り果てていた。それも、シムラや自分とはまた別種の化け物に、だ。 胸の銃創が蠢き出し、激痛の中に奇妙な感覚を呼ぶ。マービンは片腕までをも床につき、蹲るような姿勢でケンドの声を聞いていた。 「ま、これで殻が一つ増える。安心してくたばっちまいな」 「……カ、ラ……?」 「俺達の『仲間』になるのさ。マービン。お前さんなら良い殻になれる。 下で熱烈な歓迎パーティ開いてやるぜ。ミカエル・フェスティバル並の盛大なやつだ」 「…………そうか……あんたもか……」 同じだ。マービンは、思う。 種類は違えど、やる事は同じ。彼はもう、シムラと同じ目的を持ってしまっているのだ。 仲間を増やす目的を。人間を殺す目的を。 ――――ならば。 胸の銃創から三発の銃弾が押し出され、掌の中に落ちた。 蠢く傷口は、再生の証。完治までは程遠いが、痛みは徐々に和らぎつつある。動くには充分だ。 ケンドからは完全に死角の右腕。すかさずマービンはケンドの顔面目掛け、下から押し出すように手の中の銃弾を投げつけた。 虚を突かれたケンドは驚愕の表情で、しかし、トリガーにかかった指を引く。 銃声がオフィス内で反響し、鮮血が舞った。 「ぐっ……!」 頬から左耳にかけて、焼けつくような熱が走った。恐らく耳は吹き飛んでいるだろう。 だか、それは想定の範疇の事。 ケンドはマービンから顔を背けていた。顔面に投げつけられた銃弾を反射的に避けようとして、だ。当然、銃口はぶれている。 マービンが欲しかったのはその隙だ。 急所にポイントされているであろう銃口を外し、自らがホルスターからベレッタを引き抜く隙が欲しかった。 行動不能に陥らない箇所であれば、銃撃を受けるのは覚悟の上で。 ケンドがその両目を開きマービンを見据えた時、既にマービンはベレッタを突きつけ、狙いを定めていた。 ――――再度の銃声は、マービンの手の中から。 ケンドは口を開くも、その声は数発の破裂音に掻き消されていた。 喉に、額に、顎に、風穴が開いていく。黒い体液が飛散する。 断末魔の悲鳴を残す事もなく、ケンドの身体は床に倒れ込んだ。すぐ側のデスクを巻き込みながら。 デスク上に置かれていた組立途中のモデルガンの部品がばら撒かれ、床で細かな音を鳴らしていた。 「悪いが、簡単には死ねないらしいんだ。そのパーティはキャンセルしてくれ。 ……あんたにこの銃を使わなきゃならんとは、残念だよケンド」 その言葉は、どこか、力なく。 マービンは再び胸を押さえて、脱力したかのようにその場に座り込んだ。 手の中の傷口は、今もそれ自体が生き物であるかの様に蠢いている。 頬や耳もそうだ。胸と同じように蠢いて元に戻ろうとしている。再生の、慣れない奇妙な感覚だった。 「不死身の肉体……助けられたな」 ただの人間であれば確実に致命傷だったはずなのに。 異形と化したケンドを殺せたのは、この身体のおかげだ。 警官に最適な肉体。その一点においては、自らの言葉に間違いはなかった。 自分の選択は、間違ってはいなかったのだ。 ――――しかし。 同時に、マービンは理解していた。 この選択は、正しくもなかったのだと。 今の彼が感じているのは、あの安堵感だった。 近くに赤い湖がある訳ではないのに。 意識が先程同様に惹きつけられている。 望まぬ安寧が、容赦無く襲いかかってくる。 その理由は――――どうやら、この血らしい。マービンは、己の血塗れの掌を見返した。 制服の染みを広げていく赤い血液。 首筋に垂れ落ちている赤い血液。 この身体から血を流してしまう程、症状の進行は早まっていくという実感が確かに感じられていた。 これでは、この不死の身体を活かしようもない。 マービンの胸中に、諦めの気持ちが広がっていく。 例えばこの先で――――生存者と共闘する未来が訪れたとしても。 人間を守る為に戦い、血を流す度に意識まで化け物に近付いていくのであれば。 遅かれ早かれ自分が行き着く果ては、シムラやケンドのような人間を殺す存在だ。 警官らしくあろうとすればする程、自分は化け物でしかいられなくなる。本末転倒も良いところではないか。 つまりはこれから先に、自身が生存者達に対して出来る事は何もない――――。 「……いや、まだだ。まだ、一つだけ……俺に出来る事はある」 マービンは立ち上がると、ケンドの身体に歩を進めた。 マービンの開けた風穴からは、黒い液体流れ出ていた。これが何かは不明だが、ケンドが変貌した化け物としての特徴なのだろう。 今のところ、その傷口の再生は見られないが――――いずれ自分のように蘇らないとも限らない。 オフィス内から二つの手錠を見つけ出すと、マービンはケンドの後ろ手にした両手と両足を拘束し、その手錠同士にも自身の装備品である手錠をかける。 海老反り状態での拘束だ。これでケンドが再び蘇ろうとも、身動きは取れない。 次に――――。 入り口まで歩み寄ったマービンは、扉を閉めて内鍵をかけた。 そしてドアノブの側部にベレッタを向けると、僅かな躊躇いの後に、引き金を数回引いた。 耳障りな金属音を立ててドアノブは弾け飛び、床に転がった。 「化け物二匹の拘置、完了だ……」 マービンは、扉にもたれ掛かるように腰を下ろした。 これで、扉を破壊しない限りはマービンはここから出られない。 これから、死ぬまで。いや、死ねないのだから永遠だ。永遠にマービンはここで化け物の看守役を引き受ける事になる。 「永遠に苦しむか……彼の言った通りになりそうだ」 先程も浮かんだシムラの言葉が再び思い出された。 そして、彼との別れ際の言葉も。 「シムラさん。頑固者はあんただけじゃなかった。どうやら、俺も大概らしい」 だが――――それでいい。 下手に抗い、守りたい者達に危害を加えるようになってしまうよりは、その方がずっとマシだった。 マービンは、顔を歪めていた。 それは、自虐的な笑みのような。永遠への恐怖を必死で堪えているような。 どちらともつかぬ、顔だった――――。 そのまま何をするでもなく、どのくらいが経った時か――――。 マービンの耳に、マシンガンやショットガンのものと思われる銃声が届いた。 それは、署の中での事だろうか。それとも外だろうか。 発砲しているのは人間なのか。それとも化け物同士での抗争か。 何一つ、はっきりとはしない。マービンには分かりようもない。 だが、意識を音に集中させていると、唐突に流れ込んでくる映像があった。 化け物が――――いや、あれが人間か。人間が、マシンガンを持った迷彩服の『化け物』を蹴り倒していた。 不意に耳元で誰かの声が上がる。不自然な程にくぐもっていて判別しにくいが、何処かで聞いた覚えのある声だった。 (これは、何だ……?) 自分が他の誰かに成り変わっているかのような感覚。 惹きつけられて見る幻覚にしては、安らぎとは無縁の映像。 これは、幻覚ではないのだろうか。 しばらくして、映像の中の人間がいるのはこの警察署の前だと気付いた。 やたらと大きな黒衣の犬や、三角錐の金属を被る大男。 その場には、様々な怪物達が入れ替わり立ち替わりでやってきては去っていく。 恐らくこれは、幻覚ではない。すぐ外で起きている現実なのだ。救助に駆け付けられない事をもどかしく思うが――――。 やがて、集まってきた三人の人間達。 その内の二人は、異形の姿に見えるとはいえ、誰なのかは一目で分かった。 「あいつら……来てたのか」 S.T.A.R.S.アルファチームの紅一点。ジル・バレンタイン。 数時間前まで行動を共にしていた脳天気な同僚。ケビン・ライマン。 自分よりも場数を踏んでいる、二人の警察官だ。 マービンは、思わず口元を吊り上げていた。 今度は確かな喜びで、笑みを浮かべていた。 ジルとケビン。彼等もこのおかしな街に来ていた事は、喜んでいい事では無いのかもしれない。 それでも、ここから動けない自分の代わりになってくれる存在がある。 その事実は、マービンの胸に僅かばかりの希望を与えてくれた。 「……お前達なら大丈夫だろう」 マービンは、呟いた。 彼等ならきっと上手くやれる。 自分には出来なかった事を、きっと成し遂げてくれる。 彼等が自分のような化け物になってしまう事は、きっとない。 それは何の根拠もない、妄想に過ぎないものかもしれないが。 そんな願望を乗せて。 期待を込めて。 マービンは、もう一度呟いた。 「お前達なら、大丈夫だ…………!」 【D-2/警察署二階・S.T.A.R.S.オフィス内/一日目深夜】 【マービン・ブラナー@バイオハザードシリーズ】 [状態]:屍人化への不安と恐怖。ジル達への期待と希望。 [装備]:ベレッタM92F(4/15) [道具]:壊れた無線機 [思考・状況] 基本行動方針:他人を傷つけない 1:屍人化の進行に逆らえる限り逆らう。 ※“今のところは”他人を傷つける気は無いようです。 ※ケンドの持っていた銃は、サムライエッジ・バリー・バートンモデルです。 back 目次へ next 復讐の女神 時系列順・目次 My Dear Sweet Sister 譲らぬ決意 投下順・目次 Survivor ――Eye of the Tiger――
https://w.atwiki.jp/deruze/pages/92.html
ルーベライズ』のパワーストーン 握り込んで願えば何でも願いが叶うというパワーストーンの最高級品。 所謂幸せを呼ぶペンダントなのだがその代償として多大な犠牲を要求する。 回数制限の無い猿の手のようなもの、というのが近いかもしれない。 願いを叶えるたびに魔力が増幅しそれにより輝きが増す。 学怖本編では『天才になりたい』と願えば急速に脳が発達し死に至り。 『大金持ちになりたい』と願えば両親の死により保険金が入りました。 『殺す』と願いながら死ぬと怨念がこもり所有者をマーダーにする超強力殺人者製造機になるみたいです 本ロワでは強力すぎるため不幸:願い=7:3位の方がいいかもしれません。
https://w.atwiki.jp/deruze/pages/261.html
名前:氷室 霧絵 出典:『零~zero~』 年齢/性別:17歳/女性 外見:長い黒髪、顔は白く、白い着物を着ていて目は少し細い。 環境:氷室家の地下に眠る黄泉の門を封じるために選ばれた縄の巫女、目隠しの儀を経て7歳で座敷楼に入り、17歳の時雛咲真冬によく似た男に惚れ、その雑念のせいで儀式を失敗させる。以後怨霊化、氷室邸を訪れるものに自分と同じ苦しみを与えるだけの存在となってしまった。 性格:基本的に忍耐強い性格、しかし雛咲真冬や昔の想い人に対しては冷静さを失う。 能力:まともにやり合えば射影機でも封印しきれないほどの並外れた霊力、縄の跡が時間経過と共に四肢に刻まれ最後には八つ裂きになり死に至らしめる呪いをかける事が出来る。 口調:一人称「わたし」 二人称「あなた」 交友:雛咲真冬、雛咲深紅とは顔見知りであり霧絵にとっては黄泉の門の呪縛から解き放ってくれた恩人。 備考:『零~zero~』本編のラスボス。背後に何本もの手と得体の知れない顔が生えている恐ろしい外見の怨霊だったが雛咲深紅によって元の姿に戻ることができた。 なお怨霊形態の際の攻撃は全て一撃死であり耐久力も並みではない。 また裂き縄使用時では 裂き縄を操り黄泉の門相当の魔力を持つものなら封じる事が出来る。またそれほど巨大な門を開閉出来るほどの力で締め上げる事が出来る。
https://w.atwiki.jp/deruze/pages/373.html
すぽーつはいいぞ -- 暴犬 (2011-04-07 21 25 03) ご自慢のツンツンヘアーがー。部活を引退して髪を伸ばした3年生のようですな。 -- 名無しさん (2011-04-08 07 55 08) 優しい心を忘れないスポーツが怒りを覚えた時、どどめ色のオーラを纏った伝説のスーパースポーツに新堂さんが胴を真っ二つ……あで? -- 暴犬 (2011-04-08 18 11 58) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/deruze/pages/144.html
見つからない ――医学とは、事実の蓄積である。 それは医学だけでなく、すべての学問に言えることだ。 何をどうすれば、どうなるのか。そうした因果関係を収集し、整理する。 そうしてできた体系が、今日までの学術を形成しているのだ。 ゆえに、学者はまず、事実を受け入れねばならない。 それは、医者も例外ではない。 宮田司郎は曲がりなりにも医者である。 思想や動機、目的が人命救助とはかけ離れていても、 医学の知識を修めた人物に変わりない。 彼は、この状況をまず、事実として認識することにした。 自分がいた場所が激変しても、見知らぬ土地に飛ばされたとしても、 取り乱さず、その事実を事実として受け止めている。 (これが儀式、か……?) その上で、彼は考える。自身の住む羽生蛇村、そこに古くから伝わる秘祭が今日行われるはずだ。 明確な時刻を確認することはできないが、少なくとも、もう始まっているだろう。 だが、儀式といってもそこまで大それたものではない。生贄を伴うが、所詮ただの行事だ。 幸福を祈りはするが、超常現象を発生させるものではない。 では、この現象はいったい……? 白衣の男は周囲に視線を走らせる。見たことのない景色、深く立ちこめた霧……まったく原因がわからない。 判断材料が少なすぎる。儀式の効果か、それとも別の何かか。あるいは幻覚か……。 恋人の殺害が、予想以上に精神を疲労させているのかもしれない。 宮田は近代化の進んだ街並みを眺めながら、歩きはじめる。妙に霧が濃いので、その速度はかなり遅い。 まず、儀式に関連性があるかどうか調べよう。これには確かめる方法がきちんとある。 牧野慶、八尾比沙子。求導師と、その補佐役である者なら、儀式でないかどうかわかるはずだ。 何せ、眞魚教の儀式は彼らが主動で行うのだ。知らない方がおかしい。 ここはおそらく、自分のいた村ではないだろう。 こんな外観をしていなかったのはもちろんのこと、空気や雰囲気が、どうにも違う。 そうした情報のほかにも、判断する材料はある。自身が殺害した、恩田美奈の亡骸がどこにもないのだ。 『突然彼女の遺体が消えた』より、『突然自分が移動した』の方が、まだ信憑性はあるだろう。 まさか死体がひとりでにいなくなったわけではあるまい。 霧深き道を医師は歩く。目的地があるわけではないが、その場でじっとしていてもしかたがあるまい。 ならば、人のいそうな施設を探した方がマシだろう。あの臆病な求導師様のことだ、どこかに閉じこもっているかもしれない。 それか、求導師の補佐役である、あの女性に縋っているか……。どちらにしろ、積極的に動くことはないはずだ。 霧の中から、特徴的な建物が現れた。宮田はそれをじっと見てから、わずかに落胆の息を漏らす。 「教会だが……これは違う」 一瞬自身の知るそれかと思ったが、意匠に差異がある。これは別の宗教による教会だ。 羽生蛇村で信仰されている眞魚教とは違う。 「やはり儀式のせいではないのか……?」 儀式が原因だとすると、疑問が残る。他宗教の教会がありながら、不入谷の教会がないのは不自然なのだ。 宗教とは往々にして他のそれとなじまない。あのキリスト教でさえ、解釈の違いから内部分裂を引き起こしたくらいだ。 そんなリスクを負ってまで、こんなものを設置する理由はないだろう。 「では、いったい……」 『自分がいつの間にか移動した』という事実に対し、明確な答えがでない。 因果関係を構築できない――それは識者にとって、不快かつ不安であった。 「“声”も聞こえない、か」 日頃自分を悩ませる幻聴がないのはありがたいが、五里霧中の状況では、あまり嬉しくはない。 宮田は憂鬱そうに首を振り、教会の扉に手をかけた。 「調べるしかないな」 ――学問にしろ医学にしろ、その本質は探究だ。 医師が病原を調べるため、患者を解剖するように、彼もまた、この“異変”の解明に動く。 たとえそれが、人智の及ばぬものであったとしても。 【C-2/教会前/一日目夕刻】 【宮田司郎@SIREN】 [状態]:健康 [装備]:特になし [道具]:懐中電灯 [思考・状況] 基本行動方針:状況を把握する。 ※原作OP直前、恋人・恩田美奈を殺して埋めた直後より参加。 back 目次へ next Retry? 時系列順・目次 笑う死神 ディアハンター 投下順・目次 笑う死神 back キャラ追跡表 next ― 宮田司郎 罪物語‐ツミモノガタリ‐
https://w.atwiki.jp/deruze/pages/238.html
Creep 蛍光灯の白々とした光が狭い階段を照らしていた。明かりに照らされた壁は血とも錆ともつかない汚泥にまみれていて、正視に堪えない風景を作り上げている。地下へと延びる階段は、あたかも冥府へ導く黄泉路のようだ。三つの足音が、物寂しげに続いていく。 怖気が奔る壁を出来る限り視界から外し、先行するケビンの大きな背中をただ見つめる。拳銃を構えながら進む彼は、早すぎず、遅すぎず、適度な速度を保ってくれていた。ベルトに差した刀が、彼の歩みに合わせて無造作に揺れる。 「外と違って、ここは電気が生きてるのね」 不快感を散らすために、ともえは独りごちた。「駅」そのものに興味があったのだが、この状況で見ても面白くもなんともない。灯りのせいで、世界の変異がはっきりと見えてしまっていた。 「全くもって有難いね。灯りの嬉しさが身に沁みる。神に感謝だな。抱きついて、熱っついキスをかましまくってやろうぜ」 「……そこまで感謝するの?」 「勿論。そのまま関節全部砕いて、唾吐きかけた上で埋めてやる。ここから生還出来たら、クソったれた神に悦んでケツ差し出すさ。イピカイエーって叫びながらな」 下品な内容だが、それはどこか懐かしい響きが含まれていて、ともえは小さく顔を綻ばせた。ケビンの台詞は、漁師たちのそれを彷彿とさせる。彼女を前にしてそんな会話をする者はいなかったが、彼らの声は大きい。自ずと耳に入って来ていたものだ。 「淑女が二人いるのに、使う言葉じゃないと思うけど?」 後ろのジルが呆れたように鼻を鳴らした。 「一人の間違いだろ? 銃をぶっ放す女は阿婆擦れって相場が決まってる」 「つまり、私はベル・スターってわけ? 上等じゃない」 階段を降り切り、ケビンが半開きだった扉を押し開ける。彼が周囲の安全を確認し終わるのを待って、ともえはついに駅構内へと足を踏み入れた。 そこは想像していたよりも狭い空間であった。幾つかの電灯は壊れているらしく、中は薄暗い。また呼吸をしたくなくなるような異臭が薄く漂っていた。 「……ここ見覚えがあるんだが。気のせいか?」 「たまたまじゃない? どのみち、こんな風に変わっていては確かめようがないわね」 「……あそこだとすると、そこまで変ってねえと思えちまうのが悲しいとこだけどよ」 「あなたたち、あそこに立ち寄ったの?」 二人の会話を聞き流しながら、ともえは「駅」というものを見渡した。 改札口以外は鉄柵で遮られており、設置された券売機の画面は血糊のようなもので覆われてしまっている。二つの階段に挟まれた詰所は無人だが、割られたガラスが"何か"が起こっていたことを物語っていた。もっとも、そういった個々の名称を、ともえは何一つ知らなかったが。 三つ並んだ改札口だけは煌々と照らされていて、単なる入口以外の意味を有しているようにともえには感じられた。改札口の上部には何かしらの表示があったが、錆に浸食されていて全く読めない。 改札口の向こうから吹いてくる風が、彼女の髪を撫でて行く。その向こうにも、ケビン以外に動く影は無い。最初に襲われた人型以外、怪物はずっと現れていなかった。 足音に振り向くと、詰所の中を調べていたジルが懐中電灯を二つ手にして戻って来た。他に使えるものはなかったらしい。改札口へと歩き出すジルの背に、ともえは語り掛けた。 「ここにも化け物はいないのね」 「みたいね。拍子抜けした?」 「……少し。もっと何か起こると思ったから。周りも……その、こんなことになっちゃったでしょう?」 「そうね。私達の運がいいのか。それとも、この変化に怯えて、何処かに隠れてるのかしらね」 「あいつらが?」 「天災の前には動物は逃げ出すって言うじゃない? さすがにああいうのは動物園に入れられないけど。子供が泣くし」 ジルに続いて、ともえは改札機を通った。塞いでいたバーが軋りを上げながら回転する。彼女らが来たのを見てとり、ケビンが、トイレの中を調べると告げて中に消えて行った。 「もしくは、あいつらを怯えさせる何かが、この辺りにいる……とか?」 「それがトモエかもね。ニッポンジンなんだし、ニンジャ、サムライ、ヤクザと、怖がる要素一杯よ」 「既に襲われてるのに?」 「誰にでも間違いはあるわ。化け物でもね。それとも、逆にあなたに惹かれてきたって説も有りか。後顧の憂いを絶つ、上手い断り方の練習をしておかなきゃね」 ジルに釣られて、ともえは小さく笑った。ただし、ジルは頬を緩めてはいるが、その引き締まった身体は、いつでも即座に動けるように適度な緊張を保っている。それは、ともえの眼から見てもはっきりと分かった。 一般人が落ち着けるようにと、気を遣ってくれている。それは心地よくもあり、悔しくもあった。 己には、この状況で何もできない。銃は勿論こと、土地勘もない地で上手く立ち回る器量もない。隣に居る女性に、対等に渡り合えるものを何も持っていない。 微かな水音がした以外は、駅は心がざわつくような静けさを湛えていた。 「その拳銃で、ばんばんって断り方が一番いいのかしらね」 「それがベストでしょうね。一挺、渡しておきましょうか?」 「……遠慮しとく。私じゃ、自分の足撃つのが関の山だもの」 「そう? 男にも効果覿面なのに」 「おい、ジル。渡すのは良いが、素人に銃押しつけて、化け物がうろつく夜の学校で二手に分かれて人探しーなんて馬鹿やらかすなよな」 会話が聞こえていたらしく、扉を開けながらケビンが言ってきた。排泄物の臭いが一瞬だけ空気に混じって消える。ジルが大仰に溜息をついた。 「そんな馬鹿、誰がやるのよ。……無駄に具体的なのが、すっごく気になるんだけど?」 「気にすんな。それより、ここは本当にラクーンの駅のようだぜ」 「アメリカの町は、トイレに特徴でもあるの?」 「そうだったなら面白えんだがな。個室に、駅員の死体があってな。俺の知人の同僚だ。間違いない。ラクーンシティで確認した時のままだ。そっくりそのままな」 「……それはつまり、私たちみたいに駅そのものがここに来たってこと?」 「そう考えるより他にねえな。ここが、本当にサイレントヒルって町なのかも怪しくなってきたぜ。少なくとも、こんな町は現実にはありえねえってことだろ」 「そう、なるでしょうね。悪い夢でも見ているみたい……ところで、手、洗った?」 「水が出なかった」 ジルは嫌そうな顔をして、懐中電灯をケビンに手渡した。 サイレントヒルという町は、ケビンたちの町ではない。しかし、この駅はケビンたちの町のものである。その理由も仕組みも分からない。 しかし、そのことよりも、ともえには気になることがあった。ケビンは、"死体"があると言ったのだ。 太田家の伝書にある一文が、否応にも浮かんでくる。 ともえは、ケビンに尋ねた。 「ちょっと待って、ケビン。そこに死体があるの? 人間の死体が?」 「ああ。ちゃんと死んでる。気味は悪いだろうがな。それとも、何か気になることでもあるのか?」 "人死にの際には、葬儀において滅爻樹を用いること忘れるべからず"――用いなねば、死体は"死体"でなくなる。 しかし、ここは夜見島ではない。想像もつかない、遠い外国の地だ。最初の、ケビンのたちの言葉に依るならば。 だが、もしこれが加奈江に由来する出来事だったとしたならば、話は違ってくる。 もし、そうだとしたら、そうである可能性があるのならば、彼らにも伝えておく必要があるのではないか。夜見島に伝わる伝承と、昨晩己たちの身に起こったことを――。 「……いいえ。ごめんなさい。その、気味が悪かっただけ」 結局、ともえは口に出すことが出来なかった。 ケビンとジルが訝しそうに見ているが、それを笑って誤魔化す。今、滅爻樹の枝は手元にない。伝えた所で、対処できないのならば無意味だ。徒に彼らの不安を煽るだけになる。 それに、これが加奈江の仕業と決まったわけではない――。 いや、そうではない。ともえの中の胸騒ぎは消えていない。全部ではないにしろ、何らかの形で古の者は関与していると、確信に近い予感がある。 己は伝えたくないのだ。伝承はともかくとも、己の身に起こったことに関しては、加奈江や三上家への仕打ちに触れなくてはならなくなる。そしてそれは、外部のものたちに決して理解はされない。 島では受け入れられることであっても、ここは"外"だ。ここにおいては、己が"他所者"なのだ。 理解されないだけならばいい。話したことで、ケビンたちに拒絶されることが怖かった。島の外からすれば、己たちがした行為はただの人殺しだ。そうとしか見られない。 「そんじゃ、気味が悪い所からは離れて、プラットホームに行くか。ラクーンと同じなら、こっちの階段だ」 表情を沈めたともえを気遣ってか、ケビンが明るい調子で言った。疑念は消したわけではないだろうが、踏み込んではこなかった。 同じようにケビンが先頭に立ち、更に地下へと続く階段を降りていく。吹き上がってくる風には、血と腐敗の臭いが混じっている。それは、一段一段降りる度に濃くなっていった。 プラットホームに降り立った時、ともえは思わず呻いた。壁や床が赤い汚れに覆われているのは上と同じだが、その上に本物の血肉が散乱していた。擂り潰されたような肉片が、床に赤黒い線を形作っている。壁を覆うタイルは、大きな力で殴りつけられたように何か所かが爆ぜ飛んでいた。破壊された監視用カメラからは、小さな火花が散っている。 噎せかえるような血肉の臭いに、ともえは思わず袖で鼻と口を覆った。 固まりかけた血を踏んで、ケビンの赤い足跡が床に刻まれていく。 プラットホームに列車の姿は無かった。 「全部が同じってわけでもねえらしいな。トモエ、離れるなよ」 ケビンとジルは眼光を鋭くして、周囲を確認している。割れた蛍光灯の欠片をブーツが踏み砕く音が静かに響いた。機能していない電灯の方が多く、上に比べて、陰となっている部分が圧倒的に多い。二つの懐中電灯の光が、心許なく闇の中を移動する。ジルが一言告げて、プラットホームの反対側へと離れて行った。 草履が、何か柔らかいものを踏みつけた。それが人間の腕だと分かり、悲鳴を上げそうになるのを無理やり噛み殺す。 ケビンが、知り合いの者らしい名前を呼んでいた。彼の声は、木魂のように反響しながら闇の中に吸い込まれていった。しばらくしても、それに対する応答はなかった。 「……あなたの知り合い、いないみたいね。残念って言い方も、この場合はおかしいのかな」 「俺にも分からんね。ここも向こうも、状況的にゃ大して変わらねえしな」 言いながら、ケビンは線路を覗きこみ、懐中電灯を当てた。白い光の輪に照らし出されるのは、人の残骸だ。一人や二人の量ではない。中には、襲ってきた化け物のようなものの一部も混じっている。 呻いて、ともえは顔を背けた。蹲って、胃液がせり上がってこようとするのを必死にこらえる。気がつくと、ケビンが背中を擦ってくれていた。段々と気持が落ち着いてくる。涙を拭って、深く吸わないように注意しながら呼吸を整えた。 礼を小さく告げて、ともえはよろよろと立ち上がった。 「余計気味が悪くなっちまったな。この有様は列車に轢かれたのかね……。ま、運行しているなら、俺たちにツキはあるってことだ。そう考えようや」 「電車って……そういうものなの? ……あんなことにしてしまうものなの?」 「そういや、おまえさんの島には電車ないんだっけか。轢かれりゃあんな風になるんだ。普通は、その後"救助"するために列車は止まるもんだけどな。ま、どう見てもここは普通じゃない。モラルなんぞ期待する方がアホさ」 「……だから、あなたは手を洗わないの?」 「ロックだろ? 分からないか?」 「いいえ、分かりたくないけど」 「ま、本当に水出なかったんだがな」 轟と響く風籟は、死者の怨嗟のように駅全体を震わせている。 少し離れた所で、ジルも線路を覗きこんでいた。彼女はプラットホームの縁から何かを拾い上げ、ぽつりと呟くのが聞こえた。 「……電車のせいだけじゃないかもしれない」 「何か見つけたのか?」 ジルに近寄ると、彼女は摘まんでいたものを差し出した。それは拳ほどもある、一枚の鱗だった。澱んだ深い緑色が、懐中電灯に照らされて艶めかしく光る。 「それって……鱗? 蛇みたいに見えるけど……」 「ご名答。ホームの角で削れたんでしょうね。線路の方は分からないけど、プラットホームを荒らしたのはこいつで間違いないと思う。下水道の巨大ワニならぬ、地下鉄の巨大ヘビってところかしら」 手渡されたケビンが鱗を透かして見、そして大きくため息をついた。 「おいおい。これの持ち主は恐竜か何かか? 見たことねえぜ、こんなでっかいの。そんなのがいるってのか?」 「似たようなのは見たことあるわ。例の洋館で、リチャードを殺した奴よ。全長は30フィートぐらい。あいつは、それでも頭や横幅にしたら短いぐらいだったけど。この持ち主も、それぐらいはあるんじゃない? この地下鉄は、塒には最適でしょうね。下水道への抜け穴とかが複数あるのかもしれないし」 「でも、おまえらはそいつをやっつけたんだ。そうだろ?」 「ええ。フォレストとリチャードの遺品のお陰でね。M3もアーウェン37も、どっちもラクーン警察署の中よ」 「……くそったれ。地下鉄はデカいノミだけで勘弁してほしいぜ。電車に乗ってるときに襲われたら、一たまりもねえぞ」 ケビンが鱗を床に叩きつけた。鱗は跳ねて、線路の闇へと落ちていく。それを視線で追いながら、ジルが小さく肩を竦めた。 「襲うのならとっくに電車を襲っているでしょうよ。ヘビって耳は悪いけど、振動には敏感らしいから。後は運次第よ。まずは、電車が無事に動いているか。そして、ヘビが私達の臭いを嗅ぎつけてこないか。どこかでレールが歪められていないか……徒歩も電車も、どっちもリスクは似たようなものね」 「ちょっと待って。あっさり言われて聞き流したんだけど、大きな蚤までいるの? アメリカって全部が巨大ってわけ?」 「最近はそうなんだよ。小型化が得意なニッポンとは真逆さ」 「そう……。アメリカ人じゃなくてよかったわ」 「……私もアメリカに生まれたことを心底後悔したい気分よ」 ジルが苦笑し、髪を掻きあげた。 「さて、最初の問題。電車は動いているか否か。10分ぐらい待ってみる? 時刻表が見えなくなってるけど、あんなのは元から当てにならないし」 「ここで? 蛇や蚤の話を聞いて、じっと待っていられるだけの度胸はないわよ」 「俺も同感。上で待とう。列車が来れば、音で分かる。ここに来て、もう10分かそこらは経ってるだろ。合計20分だ。それでなんもなけりゃ歩いていくしかねえ」 ケビンが背後の階段を指差した。ともえとジルが同意し、三人は階段へと足を進めた。その途中、こつこつこつと、階段を下りてくる音が響いた。怪物が来たのかと思ったが、それとも違う。足音はたどたどしくもなく、しっかりとしたものだ。意思の存在を感じさせる音だった。 ケビンたちもそう思ったらしく、銃を手にはしているが構えはしない。ジルの指示で、一行は階段からすぐには見えない位置に移動した。 「警察です! 一度立ち止まって、返事をしてください!」 ジルが叫んだ。しかし、足音は止まらなかった。規則正しい音が、淡々と刻まれていく。 「警察だ! 返事をしろ!」 ケビンが怒鳴った。しかし、応答はない。 ――いや、違う。来訪者の声は聞こえる。うめき声ではない。何かを一人でぶつぶつと呟いている。 「――だよな。まったく、ジムの奴はさ、こういうときに運よく夜勤じゃねえんだもんな。腹が立つぜ。しかしまあ、夜の暗さってのはいいもんだ。ようやく分かったよ。なんて俺は馬鹿だったんだ。夜の闇はいい。本当さ」 ケビンは舌打ちし、階段の降り口に向かって銃を構えた。それを知ってか知らずか、階段を蹴り上げた音が響く。たんという軽い音と共に、人影が階下に降り立った。 「そう思うだろ? あんたらも」 そこには、幾重ものシーツをマントのように頭から被った男が不気味な笑みを浮かべていた。眼から黒い涙を流しながら――。 【A-2/地下鉄駅プラットホーム/1日目夜】 【ケビン・ライマン@バイオハザードアウトブレイク】 [状態]:身体的疲労(小) 、T-ウィルス感染中、手を洗ってない [装備]:ケビン専用45オート(装弾数5/7)@バイオハザードシリーズ、日本刀、ハンドライト [道具]:法執行官証票 [思考・状況] 基本行動方針:救難者は助けながら、脱出。T-ウィルスに感染したままなら、最後ぐらい恰好つける。 1:男(闇人)に対処する。 2:電車を10分だけ待つ。来なかったら徒歩で警察署へ向かう。 3:警察署で街の情報を集める ※T-ウィルス感染者です。時間経過、もしくは死亡後にゾンビ化する可能性があります。 ※闇人がゾンビのように敵かどうか判断し兼ねています。 【ジル・バレンタイン@バイオハザード アンブレラ・クロニクルズ】 [状態]:健康 [装備]:M92Fカスタム"サムライエッジ2"(装弾数12/15)@バイオハザードシリーズ [道具]:キーピック、M92(装弾数15/15)、ナイフ、地図、ハンドガンの弾×2、携帯用救急キット、栄養ドリンク、ハンドライト [思考・状況] 基本行動方針:救難者は助けながら、脱出。 1:男(闇人)に対処する。 2:電車を10分だけ待つ。来なかったら徒歩で警察署へ向かう。 3:警察署で街の情報を集める ※ケビンがT-ウィルスに感染していることを知っています。 ※闇人がゾンビのように敵かどうか判断し兼ねています。 【太田ともえ@SIREN2】 [状態]:身体的・精神的疲労(小) [装備]:髪飾り@SIRENシリーズ [道具]:なし [思考・状況] 基本行動方針:夜見島に帰る。 1:ケビンたちに同行し、状況を調べる 2:事態が穢れによるものであるならば、総領の娘としての使命を全うする ※闇人の存在に対して、何かしら察知することができるかもしれません。 ※A-1兼A-2駅はラクーンシティの地下鉄駅のようです。 ※駅の水道が壊れています。 ※ヨーン@バイオハザードシリーズが、地下鉄構内及び下水道を塒にしているようです。 ※闇人は、トイレで死んでいた駅職員(リッキー)です。駅の構造について熟知しています。 【クリーチャー情報】 名前:ヨーン 出典:『バイオハザードシリーズ』 形態:唯一存在 外見:全長10メートルほどの大蛇。全長の割に頭部が大きく、横幅も太い。 武器:牙、全身 能力:巨体に似合わない速度で移動する。蛇腹により、壁や天井も縦横無尽に這い回れる。牙には猛毒があり、噛まれたら専用の血清を打たない限り5分以内で死に至る。巨体を活かした体当たりは木造の壁や天井を容易くぶち破る。また、巻きついて全身を砕いたり、成人男性を一呑みにしてしまうこともできる。 攻撃力:★★★★☆ 生命力:★★★★☆ 敏捷性:★★★★☆ 行動パターン:ほぼ蛇と同じ生態。地下鉄構内や下水道を通して町中を移動している。 備考:実験体だった毒蛇が逃げ出し、T-ウィルスの影響で巨大化したもの。アークレイ山地の洋館では、通気ダクトを通って神出鬼没に捕食行動を繰り返していたらしい。表皮を鱗で覆われているため、対抗策には相応の威力を持った銃火器や作戦が必要。硫酸弾が弱点。 back 目次へ next クローズアップ殺人鬼 時系列順・目次 悪鬼がとおる 錆びた穽 投下順・目次 DEEP RISING back キャラ追跡表 next 暗闇通り探検隊 ジル・バレンタイン Vicious Legacy 暗闇通り探検隊 太田ともえ Vicious Legacy 暗闇通り探検隊 ケビン・ライマン Vicious Legacy
https://w.atwiki.jp/deruze/pages/4.html
サイレントヒル アメリカ北東部に位置する田舎町。 かつては先住民族の聖地であり、町の持つ力は邪悪なものではなかったが、 伝染病の流行や刑務所での処刑などによって、その場の持つ力が大きく歪んでしまった。 更にサイレントヒル1で発生した大規模な異世界化によって、町は無意識を具現化する大きな触媒へと変貌してしまう。
https://w.atwiki.jp/deruze/pages/128.html
見ぃつけた ■ ◆ ■ B-1の何処か。 名も無き亡骸が、そこで横たわっていた。 本来ならそこで役目を終える筈だった殻。 ここで朽ち果てるのを待つだけの存在。 もう、動かない。 …………ピクリ。 ―――動かない「筈」だった。 ◆ ■ ◆ 「……………みんな……………」 牧師――牧野慶が、霧に覆われた道を弱々しい足どりで進んでいた。 「………何処にいっちゃったんだ……………」 ……みんな、居なくなってしまった。 見慣れた村人も、住宅も、森林も、何もかも。 自分は、言われた通りに儀式を行なっただけなのに。 ―――どうして? どうしてこんな事に? 消えた羽生蛇村の代わりに現れたのは、西洋風のおかしな町並み。 見知らぬ町並み、見知らぬ建造物。 何もかもがかつて居た場所とは違う、異形の世界。 ―――まさか、こんな事になってしまったのは自分のせいなのか? 牧野は、自分の義理の父―――牧野怜治の姿を思い浮かべる。 怜治もまた、牧野同様、羽生蛇村の求道師だった。 儀式を失敗させてしまった彼の行く末を、牧野はよく知っている。 ―――もしも自分が儀式を失敗に終わらせたら……。 体中から血がサァーッと引いていくのを感じる。 住民から後ろ指を指されながら生きていく人生。 そんな惨めな目には遭いたくない。 ―――でも、どうすれば…………。 「八尾さん…………………」 彼は自分の理解者である、八尾比沙子の名を呼んだ。 村人の重圧から自分を救ってくれる唯一の存在。 それが、彼女である。 ……勇気も、力も無い彼には、彼女に救いを求める事しか出来なかった。 それが惨めな事である事は彼も薄々理解している。 だが、それでも、彼は彼女に頼るしかなかったのだ。 ―――こんな時、八尾さんなら………………。 八尾さんなら、なんと言ってくれるのだろうか。 きっとあの優しい顔のまま、励ましてくれるに違いない。 そして言ってくれる。 「またやり直せばいい」と。 …………やり直す? 「そうだ…………!」 ―――そうだ、それがあるじゃないか! 失敗したのならもう一度やり直せばいい。 美耶子様は逃げただけであって、死んだ訳ではない。 探し出して、もう一度儀式を行なうのだ。 そうすれば、儀式は成功し、この変異も終わるに違いない。 「よし…………!」 この事は、牧野の恐怖心を和らげるには十分な物だった。 彼は再び儀式を行なう為に、前よりも軽い足どりで道を進み始めようとした。 だが、その瞬間。 ザザ―――――ザザッ―――― 「なっ………………!」 彼の視界が、まるで「壊れたテレビ」の様に変化したのだ。 映っている景色も、ついさっきまで見ていた所ではなくなっている。 「これは……………………!」 牧野は自らの身に起きたこの現象に戸惑いを隠せないでいた。 何故なら、今自分の目の前に広がっているこの光景は、 「つい先程彼が見た場所」にそっくりだったのだから。 ザザ――ザッ―――ザザ――――― 意志とは関係無く、視界は前へ、前へと進んで行く。 まるで、誰かの視界を支配して自分で見ている様だ。 ザッ――ザッ―――――ザザザザッ―― しばらくして、霧の中から人影らしき物がぼんやりと現れた。 牧野と良く似た体格をしたそれは、頭を抱えているようにも見える。 視界の移動する速さが急激に落ちていった。 前方の影に気づかれないように、慎重に進んでいる。 近づくにつれ影はその全貌を露にしていく。 それは、その影の正体は――――――――――。 「私…………………………?」 ――――――自分だった。 目の前の人影は、―――牧野慶その人だったのだ。 あの修道服は、あの体格は、紛れも無い自分自身。 良く似ているのではない。 あれこそが自分だったのである。 「…………………………!!」 自らの姿を見た瞬間、彼の視界は元の世界に戻された。 変化した時と同様に、一瞬で。 「あれは…………………!」 ……理解出来なかった。 どうして目の前に自分の姿があったのか。 そもそもあれは何なのか。 考えれば、考えるほど、意味が解からなくなっていく……。 ――――――…………待て。 あの光景はまるで自分が今まで来た道を辿っているようだった。 あれが、仮に他人の視線だとするのなら? ―――まさか。 ……そんな筈が無い。 いや、そんな事があってたまるか。 「誰かが自分を付けている」なんて。 ―――有り得ない。 ゆっくりと、恐る恐る振り返る。 ―――有り得ない筈だ。 視線の先にいたのは………………。 「………………………見たなぁ…………?」 その、「まさか」だった。 真っ黒な服装……。 人間にしては青白すぎる体色……。 眼球から流れ出る血液……。 その姿は、まるで……まるで……まるで… まるで…まるで…まるで…まるで…まるで… まるで、まるで、まるで、まるで、まるで、まるで、 まるでまるでまるでまるでまるでまるでまるでまるで―――――― 「化け物…………………………!」 牧野はすぐさま前方に視線を戻し、全力で前へと走り出した。 後ろも振り向かずに、全力で、走る、走る。 ―――殺される!! ―――あいつ、自分を襲ってくるに決まってる!! ―――嫌だ! こんな所で死にたくない!! ―――私は帰るんだ! 元の世界に! 八尾さんのいた場所へ! ―――だから……お願いだ! 誰か………誰か……! 「助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」 【B-1/犬小屋周辺の道/一日目夕刻】 【牧野慶@SIREN】 [状態]健康 怯え ヘタレ 疲労(中) [装備]修道服 [道具] [思考・状況] 基本指針:もう一度儀式を行ない、変異を終わらせる。 0:助けてぇぇぇ!! ※ここが羽生蛇村でない事に気づいているようです。 ※儀式を行なえば変異は終わると思っています。 ■ ◆ ■ 「あらら、行っちゃったよ」 逃げていく影を見つめながら、化け物――闇人が呟いた。 「………まぁ、いいや」 隙を突いて襲ってやろうと思ったが、相手が気づいてしまった。 自分では完璧に気配を消せたと思っていたのに、予想外。 追いかけようもとしたが、少し考えてから、やめた。 自分の今の脚力では、走り去った男に追いつく事は不可能だろう。 それに、この「殻」に憑依してからものの数分程度しか経っていないのである。 まだ器用に走る事は出来ない。 まずは自分を殻に馴染ませなければ。 彼は、傘を揺らしながら牧野の走って行った方向へ歩き出した。 「舞~え舞~え 巫~っと ……ヘヘッ」 陽気に歌を歌いながら、ゆっくりと。 ゆっくりと。 back 目次へ next 邪神達の胎動 時系列順・目次 夕闇通り探検隊 少年は見た! 投下順・目次 探し人 back キャラ追跡表 next ― 牧野慶 DOG